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大工塾ネットワーク協同組合 杢人の会

10:作業場考
2017.08.31

現在、作業場の引越し作業が進んでいる。

ほんの小屋掛け程度で、ひと現場かふた現場もてばよいと思って造った、単管トラス組の下小屋であったが、床が張られ、壁がつき、日除けのヨシズ天井まで追加され、結局10年以上使い続けることになってしまった(アジアンテイストの無国籍建物を、本人はいたく気に入っているが・・・)

しかし、材料の搬出入はすべて手作業、それも5Mや6Mの尺物とくれば、材木屋の評判は決して良いはずはなく、なんとか近場で良い物件はないものかと、探し続けてはいた。

私の住む伊那市西箕輪周辺では、戦後、酪農家として入植した人達が多いが、そのほとんどが後継者難などから廃業、転業を余儀なくされている。ご存じだとは思うが酪農には沢山の機械、施設が必要でそれを収納している小屋もそれ相応にある。
農業の未来を考えると、本当はそれを生かす形で同業者が継いでいくのが理想なのだろうが、現実は、持て余すばかりの大きな車庫と物置の放置に至ってしまっている。

アジアンテイストの現作業場

アジアンテイストの現作業場

そんな中の一軒で、以前から懇意にしてもらっていた方が高齢(79まで現役だった!)で、廃業したという話を聞き、詳細に中を見せてもらった。
広い藁小屋はともかく、元々牛舎として使っていた部分は、柵や溝なども多く、使いやすくするためにはかなりの改造を要する。牛の尿によって鉄部分の腐りも結構ある。床や壁に牛糞の香りは残っている。雨漏りはそこいらじゅうだ。
理想をいえばきりがないが、なにしろ一から建てるだけの経済的余裕は全くない。ここで踏み切らないとフォークリフトを使った材料の運搬は、また夢と化してしまう。悩むこと一晩、フォークの誘惑はいかんともしがたく、翌朝、おじさんによろしくお願いしますと、頭を下げていた私がいた。

現在、主流のプレカットならば作業場についてあれこれ悩む必要はあるまい。現場持ち込みの手道具だけでもなんとか対応可能だ。実際、都会の大工たちは、作業場を持っている方が少数派、あっても道具置き場程度という話を耳にする。地代の高い町場ならば当然のことなのだろう。プレカット化というのはそういった視点からも必然だったのかもしれない。

杢人の会メンバーの中には、製材機を有し、原木の買い付けからしている方さえいる。より原点に近い部分からもの作りに携わりたいという気持ちの表れなのだろう。
これは現在の業界の流れからすれば、それにまったく逆らうものなのかもしれない。
もう少し経済について考えられれば、そんな選択はあり得なかったのかもしれない。
それを批判することは容易いが、同じ生業を持つものとして、その気持ちは十分理解できる。

手刻みとプレカットの違いを一言で説明することは難しいが、その答えの一つとして、いかに一人の大工が最初から最後まで携わられたかではないかと考えている。一つ一つの材木を、どのように使いまわしていくのか考え、木拾い、墨付けをしていく作業は手刻みにとっては欠くことのできない作業であり、極論すればそれで家づくりのほとんどが決まってしまうとさえいえる。
それを機械的にこなしてしまっているプレカットとの差は見る人が見れば明らかだろう(ただし、それを見極められる人も少なくなってきているのかもしれない)。

そんな、プレカットとの効率差を少しでも縮める方策としての作業場移転。
夢の作業場と化すか、文字通り牛糞まみれの泥沼と化すか。

結果はそんなに遠くない将来に出る。

旧牛小屋

旧牛小屋

投稿者:富澤博之

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